イヤトレ雑感
音楽に必要な数々の能力のうち、わたしはとりわけ聴音が人並み以下だという自覚がある。ここで「聴音」といっているのは、メロディがある音階をどのようになぞっているか、ある和音がどういう構成のものなのか、そういったことを聞き分ける能力を指す。
気になる歌のメロディを鼻歌で再現する、あるいはカラオケで人様の歌を歌うなんてことは誰もがやったことはあるだろう。聴きとって真似るだけであれば、そんなに難しいわけではないのだ。しかし、じゃあいま歌ったメロディをドレミで歌ってみて、譜面に起こしてみて、と言われると途端にハードルが上がる。というか、普通はできない。
これができるようになりたいわけだ。
わたしはかれこれ十数年断続的にバンドでギターなりベースなり弾いてきたが、実のところコピーにせよオリジナルにせよ自分が何の音を弾いているのかよくわからないままやってきた。同じくらいのレベルの面子でやっている分にはそれで特に不都合もない。
しかし、気になる曲の分析をしたいとか、作曲したいとかなった際、つまり単になぞる以上の聴き方が必要になった際に聴音ができないと話にならないわけだ。
それで色々とイヤートレーニングのことを調べていった結果、次に挙げる二冊がなかなか評判がよかったため取り急ぎ入手してみた。
Gilson Schachnic著 宮崎隆睦訳
『リズムと音符につよくなる 楽譜初心者のための やさしいイヤートレーニング』
友寄隆哉著
『大人のための音感トレーニング本 「絶対音程感」への第一歩!編』
どちらも移動ド方式を採用したトレーニング本である。ちなみに「移動ド」とは鳴っている音の音名と階名を分け、階名で音を把握する方法をいう。もう少し具体的に言うと、どんなキーであれ、その調の1番目の音をド、2番目をレ(以下略)と呼んで把握する方法である。
前者の中身を少し紹介しよう。トレーニングは次の三段階に分かれる。①付属CDの課題曲を聴く。②聴いた曲を譜面に書く。③移動ドで歌う。これだけである。最初はドレミの三音のみを使った単旋律から始まる。章を経る毎にドレミファの4音、ドレミファソの5音と増えていき、最終的に7音すべてを使った単旋律を聴きとる段階まで進む。
「やさしいイヤートレーニング」という書名に偽りなく、さすがのわたしでも3音のみであればほぼ間違いなく聴きとり書き記すことができた。4音になった途端わからなくなったが。だがこういった教則本はなによりも「できた」という手応えがないとやってられないものだ。これならなんとか続けられそうな気がしている。
いまはまだ単旋律すらだいぶあやしい段階だが、いずれは和音を即座に把握できるレベルにまで辿り着きたいものである。筆者33歳の挑戦は始まったばかりだ。